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【創作日記】奇妙な喫茶店

土曜日の午後、高校時代の親しい友人から携帯に電話があった。
「久しぶりだから、会わないか」という話だった。本当に、彼と会うのは数か月ぶりのことだ。しばらくして、彼は車で僕のマンションまでやってきた。

1人で来ると思っていた僕は、助手席に女の子が乗っていたので、少し戸惑った。髪の長い面長な顔立ちの女の子だった。友人より2つ年下の彼女は、芸大の学生だという。2か月前に知り合い、付き合うようになったということだった。
彼女を僕に紹介した友人は、突然、何を思ったのか、「今から奇妙な喫茶店に行かないか。まだ開店してないけど、下見ということで」と言った。
僕は「閉店しているのに、なぜ行くんだ」と尋ねた。
すると彼は「日中の様子も見てみたいんだ」と言った。
「その店は、何時から開くの?」
「午前零時から開くみたいだ。変わった店だろう」と言って、彼は薄笑いを浮かべた。
確かに、午前零時から開く喫茶店は聞いたことがない。
車は30分ほど走り、路地の前で止まった。
「この奥に、その店はある」と彼は、路地を見ながら言った。そして車を再び走らせると、近くの空き地に駐車させた。
「昼間に来るのは初めてなんだ」と彼は言って、運転席から降りた。

路地の奥にある奇妙な喫茶店。(イメージ写真)

奇妙な喫茶店-1 (2)

建物の裏に回ってみると、古いリヤカーが立てかけてあった。(イメージ写真)

奇妙な喫茶店-1 (1)

「店主が変わった人でね。彼女の友達がこの店を教えてくれたんだ。彼女も変わった物や人物が好きで、僕に連れて行ってくれとせがむので、深夜に2度ほど行ったことがある」
「どんなふうに、変わっている?」
「どんなふうにって……。カウンターが8席しかない店で、とても汚い店なんだ。カウンターの上には、洗濯ひもが吊ってあって、薄汚れた下着が干している。下着を見ながら珈琲を飲むことになるんだ。なんだか、変な気分になるよ。で、便所も便器を見せるために、とびらが開けっ放しなんだ。便所のとびらに『使用後は、開けておいてください』と書かれている。だから普段は、便所の和風便器が見える形で営業されている。そんな店あるか。きっと、営業許可なんか取っていないな。いや、許可は下りないな」
彼は店での出来事を思い出したのか、口元に薄笑いを浮かべた。
「その風変りの店主、ウクレレを演奏してくれるんだ。それがとても上手くてね。なんでも、店主は若いころからバックパッカーらしくて、ヨーロッパを回って旅をしていたらしい。現地でウクレレの演奏をして日銭を稼ぎながらね」
「面白そうな人だ。会ってみたいな」
「そうだろ。もう1度、3人で夜に会おう。じゃ、午前零時前に迎えに行くよ」
彼はそう言ってニタッとした笑みを浮かべると、昭和に建てられたような古い家屋から離れていった。


※この【創作日記】はフィクションであり、実在する個人、団体等とは一切関係ありません。

住んでいる場所から日帰りできる小さな旅もあります。手作りの小旅行を楽しめる『TABICA』があります。